背が低いと言うこと
21時過ぎ、新宿発の帰りの電車でのこと。
ぎゅうぎゅう詰めの満員ではないけれど、まぁまぁ混んでいる状態。
私は、7人がけの座席のちょうど真ん中当たりのつり革につかまって文庫本を読んでいた。
すると、あとから乗ってきた30代後半から40代くらいのサラリーマン2人。
私の両隣のつり革が空いていたらしく(本に集中していて両側が空いていたのに気づかなかった)
二人は私の左右のつり革につかまった。
普段、本を読んでいると周りの話し声が気になることはまずない。
むしろ、降りる駅を乗り過ごさないか心配なくらいだ。
が、今日は違っていた。
さすがの私も集中出来ない。
私の左右の二人は、まるで私の存在なんてないものの様に私の頭上で会話している。
その声が、頭上に響く。
窓ガラスに映った様子を見ると、二人の顔はちょうど私の頭の上にある。
全く二人が会話することの障害になっていない。
二人は178cmくらいだろうか。私との差20cmちょっとというところだ。
私が間にいることなんて、見えていないんじゃないかと思うような話しぶりだ。
むしろ、私を間に挟むことで、
二人が話すには近すぎず遠すぎずちょうどいい距離を保っているように見える。
が、こっちはたまったもんじゃない。
頭の上でとびかうだけじゃなく、耳の奥に響いてくる。
まるでヘッドフォンの左右からそれぞれの声が聞こえてくるようだ。
職業柄か専門柄か、私は音には結構神経質なのかもしれないけれど、
二人の声は悪くなく、よく響く声だったから余計たちが悪い。
一定の距離を置いて聞く分には良いけれど、耳元(というより頭上)できかされたんじゃ、本も読めない。
かといって、車内は静まりかえっているわけでもないし、その2人も取り立てて大きい声で話しているわけではない。注意するのもどうかという状況だ。
しかも話している内容は、今話さなくてもいいようなことばかり。
たまたま同じ会社の先輩後輩が同じ電車で帰ることになって、
会話しないのも不自然だからとなんとか話題を見つけて会話をしている感じだ。
「今日の社長の新年の挨拶はイマイチだったな」
「もうネタが尽きたんですかね。」
「社長って家で大掃除するんだろうか?」
「しなさそうですね。」
「ベランダの隅の方とか妙なところだけこだわって磨いてそうだ。」
「いつもこれくらいの時間に帰れたらなぁ。」
「定時に出られると飲みに行っても楽ですねぇ。」
二人の声にだんだん気持ちが悪くなってきて、次の駅で一旦降りようかと思ったとき、
電車が空いて、二人の間から抜け出した所のつり革につかまり直した。
二人の間にはわたしたいたときと変わらない間がある。
で、やっぱり話し続けている。
ああ、私の背がもう10cm高かったら、あの二人はあんなにペラペラ話してないだろう。
会話をしたとしても、もう少し私が障害になり、遠慮した話し方をしただろうと思う。
普段、そんなに154cmの身長を悔やむことはないけれど、今日は本当にあと10cmあればと悔やまれた。