いちえの「空飛ぶ声のBlog」

日々のあれこれ。

電車の中で苦しんだとき。

自分で自分にびっくりした。

一昨日、甲府へ行く日の朝のこと。

いつもは朝7時に家を出る。

乗り換え案内やYahoo!路線情報によると、本当はもう少し遅い電車に乗っても間にあうのだけど、

なにしろ新宿駅の「あずさ」乗り場が遠いので心配だ。

昨日は、いつもより3分ほど家を出る時間が遅くなった。

余裕を持っている分、たいした遅れではないけれど、

心持ち、駅までの自転車をこぐスピードが速くなっていた。

駅の階段も走って登った。

この時間、当然通勤ラッシュである。

なんとか乗り込んだものの、ドア付近から奥に入っていく事は出来ない。

自転車&階段駆け上りで息が上がっているのに、深呼吸もはばかられる。

私は背が低いので、おじさん達の鼻息がかかる部分に頭がある。

満員電車だと特に息苦しい。

するとだんだん、本当に苦しくなってきた。

何度呼吸しても、酸素が体に入ってこない感覚。

呼吸が浅くなる。

胸がムカムカする。

へんな汗が出てくる。

ああ、気持ち悪い。

もう少しの辛抱だと自分を励ましながらも立っているのが辛くなってくる。

とはいえ、座り込むスペースもない状態だ。

「きっとこのまま気を失っても、周りの人に支えられ(?)て、倒れる事はないだろうな」

など妙な事を考える。

「もしかしたら、こんな状態で死んでしまう人がいても周りは気づかなかったなんてこともあったりして」

などと、怖い事まで考える。

そんな考えを巡らすほど、頭の中は冷静なのに、体の具合はどんどん悪くなる。

自転車ととばして、朝の冷たい空気を一杯吸い込んだ肺が、満員電車の空気にびっくりしているようだ。

冷たくなっている気管に生ぬるい空気が通るのが気持ちが悪い。

肺まで空気が届いてない気がする。

ああ、気持ちが悪い。

新宿の手前で、地下鉄への乗りかえ客が多く降りる駅がある。

うまくいけば、そこで座れる。

座れなくても、乗客の数は半分ほどになるので、ちょっとは楽になるだろう。

数分後、なんとか、その駅に着いた。

私はドアの近くにいたので、降りる人の迷惑にならないよう一旦ホームに降りる。

ホームに降りて、外の空気を吸った途端、・・・・うぇっ・・・・

えづいてしまった。

吐き気とは少し違う。胃液が上がってくる事もないし、吐く物もない。

喉の奥に異物を突っ込んだとき「ぎょっ」となる感じ。

何度か「うぇっ」とった自分に

「ああ、本当に具合が悪いらしい」とようやく気づく。

そのままホームに座り込みたい気持ちを我慢して、再び電車に乗り込むと、

とたんにしゃがみ込んでしまった。

もう立っていられなかった。

すると、ポンっと肩を叩かれ、顔を上げると、

サラリーマン風のおじさんが自分の座っていた席を指さした。

私がしゃがみ込んだ位置から少し離れた場所だったのに、優しい人だ・・・。

頭の中は冷静なので「大丈夫です」と答えたが、

その時、電車の中の人たちが心配そうにしてくれているのを感じ、座る事にした。

座った途端、脂汗が吹き出す。

おでこから背中から・・・じとっと・・・。

顔を手で覆うと、その手はかなり震えている。

手足の震えが止まらない。

「こまったなぁ」と思いつつも、「あずさの中で一眠りすれば良くなるだろう」と思った。

顔を上げる気力がなく、目の前に立っている人の足元ばかり見ていた。

女の人が立っていて、黒い上品なローファーを履いている。

この靴、歩きやすそうだな、キレイに手入れしてあるし、私もこんな靴欲しいなと思った。

具合が悪いというのに、頭の中はいつも通りだった。

新宿駅に着く頃に少し落ち着いていた。

おじさんにお礼を言おうとしたが、私に代わってドア付近に立っていたおじさんは、

ドアが開くと同時に人の波にのまれて行ってしまった。

ほとんどの人が電車を降りた頃、私もゆっくり立ち上がり、ホームに降りて歩き始めた。

すると、「大丈夫ですか?」と女の人の声がした。

きっと、知らず知らず、うつむき加減に歩いていたんだろう。

声の方向を向くと、女の人の靴が目に入った。

私の前に立っていた人の靴だった。

心配して、様子を見ていてくれたのかもしれない。

「大丈夫です。電車に酔ったみたいで・・」

というと、その人は

「あ、なんか・・・」

と言いかけたが、私の「ありがとうございます。」とかぶってしまい、

そのまま言葉を引っ込めてしまった。

何か手助けをしてくれようとしたんだろうか。

その女性とはそのまま、別れたが、涙が出そうなほどありがたかった。

朝の8時前の新宿駅は通勤ラッシュのど真ん中。

多くの人が早歩きかつ無表情で行き交う。

きっと知り合いにあっても気づかないだろうと思うほど、誰も他人の顔を見ていない。

満員電車の中では、普段考えられないほど、知らない人と密着していながらも、皆、無表情に振る舞う。

そこにいる人も、それぞれの温かさや冷たさを持った人間なんだという事を、少し忘れていた気がする。

ロボットじゃないんだから当たり前なのに。

なんだか急に自分にも血が通い始めた気がした。

その後、無事あずさにのり、一眠りしたら楽になっていた。

その日は一日中、調子が良くなかったものの、無事に仕事を終え帰宅した。

いったい何だったのかはわからない。

冷静だったから、パニック障害じゃないだろうと思うけど、満員電車に乗るのが怖くなる。

自転車でぶっとばした後、息を切らした状態で満員電車に乗るのだけはやめよう。