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おばあさんと私

あいかわらずメインバンクが地方銀行の私。

I銀行新宿支店に行くため、お昼過ぎの電車に乗った。

この時間の電車は、立っている人がちらほらいる程度の混み具合。

乗ってくる人たちも、なんとなくのどかだった。

私は席に座るといつもの様に読書タイムに入った。

終点まで乗っていればいいので、集中してしまっても大丈夫だ。

2つ目の停車駅を出発しようという頃、

突然、右隣に座っていた若い女性が立ち上がった。

降りるのを忘れていたかのような急な立ち上がり方だったので、私もびっくりして顔を上げた。

すると、そこに足の悪いあばあさんが座った。

杖2本を使ってようやく自分の足で歩ける様子だった。

本に集中して気づかなかった自分が恥ずかしくなり、なんとなく座り心地が悪くなった。

次の駅についた時、左隣の男性が席を立った。

降りるのかな、と一瞬顔を上げてみると、

ホームから腰の曲がりかけたおばあさんが電車に乗り込もうとしている。

あ、っと思った途端、その男性が自分の座っていた席に案内した。

私の両隣は、おばあさんになった。

座っていることに罪悪感さえ感じ始めていた。

こまった・・・。

かといって、ここで席を立っても、目の前にいるサラリーマン風のおじさんが座るだけだろうし。

なんとなくお尻が落ち着かないまま、新宿駅に着いた。

私の用は銀行のみ。急ぐわけではなかったので、ゆっくり席を立つことにした。

すると右隣に座ったおばあさんが、

「西口からタクシーに乗りたいんですけど、上ですか?下ですか?」

と聞いてきた。

新宿駅は私も上下構造がよくわからない。

「私もよくわからないですけど、このまままっすぐ言ったら地上出口があると思います。」

と答えた。

おばあさんは「エレベーターはないでしょうねぇ」と言うので、

「乗らなくても、階段はないと思いますよ。出口まで一緒に行きましょう。」と声をかけた。

すると「急いでいるでしょうから、大丈夫です」と一人で歩き始めた。

とはいえ、スキーのストックのような杖を両手に持ち、足がわりに体を支えて歩いている。

足はまっすぐのばせない様子。

いくら杖で体重を支えているとはいえ、よくこの状態で歩けているなぁと思うほど。

席を立ってあげられなかった自分自身の感情を納得させるため、

おばあさんの為と言うよりも、そんな自分を納得させるためだろうなと思いながら

そのまま西口まで一緒に歩いた。

それでもおばあさんは「忙しいでしょうから」と遠慮する。

私は「急いでないですから。私も西口に行きたいですし。」と言っても恐縮している。

「今日はお仕事はお休みなの?」とえらく気にしてくれる。

「お休みです。だから大丈夫。でも私も東京にあまり詳しくないので、迷うかも知れないですけど」

などと話しながら西口に向かった。

<人に迷惑かけちゃいけない>

きっとその思いが強いんだろうなと思った。

確かに、私もそう教えられてきた。

でも<迷惑>ってなんだろう。

人にちょっとでも負担をかけること=迷惑 って考えがちだけど、そうじゃないと思う。

ちょっと手を借りることは<迷惑>じゃないんじゃないかな。

しらないおじさんに電車の隣の席でもたれかかって寝られる方がよっぽど迷惑だ。

おばあさんは、これから都庁に行くので西口からタクシーに乗るという。

私は牛歩並みの速度で一緒に歩いた。

世間話をしながら、私の小さな罪悪感は薄まっていき、気持ちが楽になっていった。

おばあさんは元々は北海道の人だが、50年前働くために東京に出てきたそうだ。

何歳なのかは聞くことは出来なかったが、かなりお年は召しているようだった。

想像以上に歩くのが大変そうなので、車いすを使ったら楽だろうにと思った。

ただ、電車に乗ることを考えると、つえの方が身軽なんだろうなぁ。

それに、このおばあさん、足の悪さは外出する事の阻害要因ではないと思わせるほどパワフルだ。

都会で自力で移動しなければならないとなると、足が悪くても気力と他の筋力がカバーするのだろうか。

ふと友人が言っていたことを思いだした。

「今度の介護保険法改正では、要介護度が低い人は、

新予防給付といって、高齢者に筋トレさせるんだ。」

いくら筋トレしたって、使わなければ衰える一方。

寝たきり予防だかなんだか知らないが、日常生活でその人が動きたいと思うようなサポートをしていく体勢を作る方が良いのではないかとこのおばあさんを見ていて思った。

今日であったおばあさんは、足の状態からすると寝たきりでもおかしくないくらいだと思う。

それでも自分で都庁に行きたいから動く。

自分で電車に乗りたいから杖を巧みに使う。

私自身、体を鍛えたいと思って始める筋トレは続かないし、筋肉痛になるほどはできない。

それでも、駅までの坂道を自転車で走ることは、鍛えている意識はないうちに筋肉痛になっている。

(まぁ、それも情けない話だが)

日常生活で必要な筋肉。

その人の意識次第。自分でどこまでやりたいと思っているか、やれると思っているか、によるのかな。

一緒に歩いた数分間。そんな事を考えつつ、

自分の罪悪感を一生懸命もみ消した。

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